サフィスの父で、元財務官僚。
イフロースを家宰に引き入れ、ピュリス総督の地位を手に入れた。
現在の子爵家の繁栄は、彼の努力によっている。°2
「そうとも。だが、運がよかった。マルカーズ連合国は、フォレスティア王国の従属国という扱いになっているから、しばしば両国からの使節が派遣されてくる。フィルは、私が貴族の城を攻め落としたという事件を遠くで聞き知って、慌ててその使節団の一員になりたいと申し出たそうだ」
「フィルはな、一人きりで頑張っていたんだ。あとの連中はもう、召使なんてのも名ばかり、要は王都で出世したご主人様にぶら下がって、甘い蜜を吸うだけ。おまけに、奥方もひどかった。貧乏だったせいなんだろうが、二十六まで待たされてやっと娶った、たった一人の女があれとは」
「反吐でも出そうな顔してますよ」
「反吐どころか、内臓が裏返るわ、あのクソ女め。金遣いは荒いわ、嫉妬深いわ、その上に見栄っ張りで、やかましくて、もう悪夢のようだった。しかも、一人息子を産んだらもうおしまい、と言わんばかりに、フィルを寄せ付けんかった。見ておれんかったわ。あの女の唯一よかったところは、まぁ、せいぜいのところ、早死にしたことくらいだな」